鳥を撮る - (1) 山本 晃


 野鳥を撮るなどという酔狂はとても常人には勧められないことと思えますが、自分でやっていながらでは全く説得力がありませんので、すこしは前向きに酔狂極まる世界を御紹介致しましょう。もう既にどっぷりと酔狂されておられる方はお読みにならないでください。 日本の野鳥は(などと偉そうに言えるほど外国は知りませんが)大変人間を怖れて生活していましたので、いきなり「愛鳥週間」などと身勝手な取り繕いを試みたところで気を許してくれる筈はないのです。何か下心を秘めて接近すればたちどころに警戒されてしまい、飛んで逃げて「アッカンベー」なのです。

 一番良い例がスズメ。いつでも身近に見え隠れしていながら思うように写真が撮れない野鳥はスズメがピカイチでしょう。 もっとも人家にへばりついているので、思う様にレンズを向けにくいという撮影者側の弱味も否定できません。スズメの写真を撮ろうと他人の家に望遠レンズを向ける勇気があれば問題はありませんが、そんなのは勇気とは言わず無神経といいます。人の廻りで生活している鳥では、カラスも賢い分スズメ以上に手強い被写体です。ムクドリもヒヨドリもモズも…何のことはない、みんなカメラを構えて近寄ると逃げ腰になってしまうのです。「バカバカしい、や〜めた」とあっさり権利放棄するには、揃えた器材は高額すぎます。カミサンをおだてて(或いは誤魔化して)大枚叩いて買ったレンズは普通の写真を撮るにはまず使えません。500mmレンズで記念写真(集合写真)を撮ろうと企てた状況を想像してみてください。セルフタイマーを作動させてみんなの所に走って行く途中でシャッターが切れてしまうかもしれません。第一重くて気軽に持ち歩く気になりません。 しかし、考え方ひとつ変えると世界はガラリと変わります。寄ると逃げてしまう野鳥をいかにしたら大きく写せるか(近寄れるか)。その工夫というか駆け引きというか、そこに魅力を感じ、狙った通りと言わないまでも、手応えの多少でも得られれば、もう「どっぷり酔狂」のパスポートが発券されたことになります。

 近頃はデジタル・カメラの普及が目覚ましく、誰が始めたのかスコープにコンパクトカメラタイプのデジタル・カメラを装着しての超超望遠撮影がかなり普及していますね。曰く「デジスコ」。初めて見た時は失礼ながら失笑してしまいましたが、組み合わせ次第ではなかなかの写りに狼狽させられてしまいます。只のポートレートなら、なかなかのものです。高額な重たいレンズなど無用ですし、記録媒体の容量次第で幾らでも撮れます。なんといっても後でパソコンでチョメチョメすることも出来ますからね。 ただ、写真の本質からいうと光学系に頼り過ぎるのは無理があり、限界は目に見えています。やはり被写体にいかに接近するかという最もベーシックな問題をクリアーしないと「どっぷり酔狂」の醍醐味は味わえないでしょう。 ただし、絶対忘れてはいけない不文律があります。相手は生き物であり、その生きる権利を尊重しなくてはどんな写真も「無価値」か、それ以下でしかないということです。



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