鳥を撮る - (2) 山本 晃


 鳥を撮ると申しましても、長くて重たいレンズを三脚に据えてガッチリ構える必要はないと思うのです。草原や耕作地、埋立地に棲息する鳥は自動車で移動しながら捜したりアプローチするのが効率的ですし、なんといってもラクチンなのです。ラクチンついでに道から外れて農耕地に乗り入れたりする四輪駆動車が、「人の道」まで踏み外して顰蹙(ひんしゅく)を買う事態が発生しているのは困ったものですが……。

 鳥は人間の全身の輪郭に極度な警戒を示しますが、自動車の窓から上半身や顔だけが見えているだけでは恐ろしい人間とは認識しないようです。昔々、ツバメチドリのコロニーで繁殖行動の撮影をしていた頃のこと、足繁く通っているうちに私の自動車を全く警戒しなくなってしまったのでした。ヒトに対しても寛容になってしまったのかどうか、試しに車外に出てみようとしたところ、ドアを半開きにしただけでコロニーの群れが四散してしまったことがありました。自動車は鳥から見るとウシかサイかバッファローのようにデカくても殆ど無害な存在という認識のようです。そんな鳥の認識を「悪用?」して写真撮影に使えば、自動車は「動くブラインド」に変身するのです。とはいえ、鳥にも個性があり、自動車でも近寄れない場合は少なくありません。猛禽の仲間がそういう鳥の最右翼でしょう。オオタカやハヤブサに30メートル位寄れたら余程の幸運に巡り合えたと思って帰りの運転を慎重にする必要があります。また、せっかく近寄れても自動車のエンジンの熱気が風向きでレンズの前を横切るような場合、ひどいときにはピントすら分からない状態になったりしますから、メリットばかりのいいこと尽くめとはなりません。500mm以上のレンズでの撮影は、何が何でもガッチリした三脚に据えないと安心出来ない向きがおられるようですが、自動車の窓枠にレンズを乗せただけでも構え方次第では三脚に匹敵する安定が得られるのです。一工夫すれば丸い鏡胴もピタリと安定します。これだけは実際やっていただいて体得して頂くしかありませんが、800mmで30分の1秒のシャッター速度でも十分カメラ振れが抑えられます。

 「オレはじっくり構えるんだ」という方はそれで正解でしょう。「窓枠撮影」は長時間の待機にはやはり不利ですし、邪道とも言えます。不自然なレンズの構え方は時間がたつにつれて苦痛を生じ、撮影意欲そのものを減退させてしまいます。ですから撮影方法は臨機応変であるべきなのです。「棚ボタ」でも決定的瞬間がモノに出来ればそれは十分評価に耐える作品なのですから、憚る(はばかる)ことなく専心していれば良いのです。しかし、如何せん確率が低すぎるのです。やはり、こういう撮影姿勢はアマチュアの世界でして、プロがこんなことをしていたら干上がってしまうでしょうね。自動車で流していて「ヤヤッ!」という状況に出くわした時、すぐにファインダーに捉えることが出来るか、ゴソゴソやっていて貴重なチャンスを逃してしまうか。天使が微笑むか、悪魔が嘲うか。その差の大きさはカメラを携えて「酔狂」に踏み込んだ者にしか分かり得ないものかもしれません。



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