鳥を撮る - (5) 山本 晃


 鳥を撮るのに、なぜ重たくてピント合わせも難しい超望遠レンズが必要なのでしょうか。観察するだけでも双眼鏡や望遠鏡が必要です。誰もそんなことは当たり前だと、考えた事もないでしょう。なぜ当たり前で考えるまでもないのでしょうか。子供の頃、テレビの自然を扱ったドキュメンタリー番組で、カナダだったと思うのですが、キツツキが人を殆ど怖がらずに観察者の目の前で巣穴を掘っている場面の映像を見たことを鮮明に覚えています。子供心に日本では考えられない映像を見て強烈な印象を受け、今だに覚えているのです。日本でも都市公園などでは餌付けや人の無関心の所為もあって、びっくりするくらい人に馴れた鳥がいることを知ったのは大人になってからです。そうなのです。いっそのこと無関心でいてくれる方が、いじめられるよりどれほど有難いことか。

 牧場で牛にまつわりついているアマサギは、牛がアマサギに全く無関心なので偏利共生が成り立っているわけです(野生の牛なら偏利ではないかも)。牛が「亜麻色」の羽毛が大好物だったら状況は全く違っているでしょう。人間は太古の昔から野生の鳥獣を生きるための糧として補食してきました。家畜や家禽がその代償の役を肩代わりしてくれるようになっても、人間の狩人としての本能的な行動が、多くの野生鳥獣の人間不信の忌避行動を温存させ続けているのです。今更、動物保護だ愛鳥だと綺麗ごとを唱えても、そう簡単に許してくれないのです。だから超望遠レンズなのです。考えてみれば野生鳥獣の写真を撮ろうとしたとき、そこに生活している人間の野生鳥獣に対する接し方が、そこの野生鳥獣を撮影するのに必要となるレンズの焦点距離と相関していそうです。うんと近寄れて広角レンズや魚眼レンズで鳥が撮れたとしたら、背景や環境を取り入れた秀逸な写真はいくらでも撮影可能なのですが、通常そういう広角系のレンズによる鳥の撮影は無人撮影の場合に限られるといえます。広角系のレンズで、例えばスズメ大の鳥をそこそこの大きさで画面に写し込もうとしたら、スズメから20〜30センチにカメラを近付けなければなりません。これはもう手乗り文鳥の世界です。昔、カメラのコマーシャルで「グッと寄って、またグッと寄って撮る」なんて髪の毛が爆発したカメラマンが言ってましたが、鳥の写真の場合「グッと寄ったら逃げちゃった」という有様ですから、哀しい世界です。

 しかし、近寄らせてくれないからこそ撮影意欲が湧き出てくる、という自虐的な捉え方も成り立つ訳ですが、超広角で迫って「コルリちゃん、いいよ〜。じゃ次、カメラ目線。グー!」なんて、バカバカしくなりますよね。フィールドで丁々発止の駆け引きの末、なんとかモノに出来た、という緊張感が魅力の世界だと思うのですが、レンズフードに止まられて結局写せなかった、なんていいですよね。そんなのなら写真に撮れなくても大満足でしょうね。今の日本なら……。鳥を写す心が写真に出ますから注意しましょう。



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