野鳥保護について - 高橋 伸夫

ヒナの場合

傷病鳥(ここでは健康なヒナも含めて)の対処方法について説明します。

 羽の生えていないヒナの場合、保護される原因として捕食(カラスや最近ではムクドリがツバメのヒナを襲った例があります)、営巣場所の略奪(カラ類やツバメ類の場合スズメなどに狙われます)、同種の非繁殖個体によるテリトリーの略奪(これもツバメなどでよく見られます)、強風などによる巣の破壊(キジバトなどでよくみられます)などで強制的に巣から出された結果です。この場合、巣が分かっていて、その巣がまともであればとにかく巣に返します。巣が壊れている場合、補修ができれば補修してやります。そうでない場合、ツバメなど椀型の巣の場合は、カップラーメンの発泡スチロールの椀底に串などで小さな穴をたくさん開け、強力なガムテープなどで壊れた巣のすぐ近くに取り付けてやるのも一法です。スズメに襲われたツバメの場合は天井との隙間を従来の巣より数センチし低くして取り付けられれば解決します。羽の生えていないヒナを巣に返せない場合は覚悟が要ります。このヒナはあなたの手で巣立ちまで面倒見て巣立ちさせるか、巣立ちで野生に戻せない場合は死ぬまで面倒見るか、あるいは都道府県に設置されている保護センターまで持っていきます。市町村にこうした鳥獣の保護センター(獣医さんなどが自発的に運営している場合もあります)があれば幸いですが、愛知県の場合は弥富野鳥園以外にはこうした施設がありませんので、どの市町村へ問い合わせても最終的には野鳥園に持っていくように指示せよというのが愛知県の姿勢です。自分で面倒見るにせよ、保護センターに運ぶにせよ、必ず行わなければならないのは県や市町村への連絡で、自分で面倒を見る場合には必ず県あるいは国の許可が必要です。以下に応急処置を紹介します。

1. 手で触ってみて動きが悪く、皮膚が冷たくなっている場合は、乾いたタオルなどで包み、ドライヤーを温風にして遠くからあて(直接皮膚にあてないで)体を暖めます。このときに気を付けることは、タオルやガーゼなど柔らかい布でふんわりと包んでやることと、鳥の体温は人間より少し高い40度位なので、自分の感覚より少し暖かい程度が目安です。
2. 体が温まったら水を与えます。指で嘴を開き、小鳥の場合はスポイトやストローなどで1滴づつ与え、飲まなくなったら止めます。水の替わりに液体のカロリーメートやポポンエスなどの完全栄養食を体温程度に暖めて与えられればなお効果的です。ハト類など大型のヒナの場合は注射器(もちろん針は外して)などで喉の奥へ直接送り込んでやると楽です。ハト類の場合は餌もこの方法で与えると楽です。
3. 自分で面倒を見る覚悟のある方は、こちらまで連絡してください。ヒナの種類を特定して必要な餌の入手方法や面倒の見方、野生への返し方などを紹介しますが、かなり大変な作業になります。細かい部分については愛玩飼養を目的とする場合の技術と同じになりますので、状況をうかがった上で私から直接手法を紹介することになります。


 体が羽に覆われているヒナ(全体の羽軸の先の部分が開いて見えるヒナ)の場合、巣立ちビナであるか、何らかの要因で巣立ちが少し早くなったヒナである可能性が高くなります。また、同一の条件で育ったヒナの中には外的要因が無くても、早過ぎる時期に巣を出てしまう個体があります。生物の進化の過程ではこうした個体の存在も必要で、逆に巣立ちが遅過ぎる個体と共に種の進化の中では環境の変化に対応する役割を果たしているのです。その時点での環境に適応しない特性を持った個体が淘汰されることにも、その種や個体群の進化には重要な意味があるのです。しかし、保護で持ち込まれるヒナの大半は正常な巣立ち時期範囲内のヒナです。フクロウやサンコウチョウのように全く飛べない状態で木の枝や幹伝いに巣を離れるものもいますし、シギ・チドリやクイナ、カモ、ヒバリなどでは当然歩いて巣を離れます。たとえ飛んで巣を離れる種でも巣立ちの時に上に飛べるヒナは稀で、ほとんどの種では気流の利用ができず下向きの飛翔で巣を離れるだけです。こうしたヒナたちには親鳥の加護と教育を受けながら自分の力で自由に飛び、自分の力で生きられるまでに育つことが野生なのですから、この途中に介入する人の手に専門的な知識が無ければ逆効果となる可能性の方が大きくなるのです。例えば巣立ち直後のヒヨドリのヒナの場合は、尾が短く体羽の殆どは筆毛のために嘴と脚が異様に大きく見えてムクドリと間違うほどで、巣立ちしたヒナとは信じ難い姿です。

1. 野外でこうしたヒナを見掛けた場合、とにかくヒナから離れて下さい。親鳥の姿が見えないからといって保護しようとするのは逆効果です。ヒナには移動能力がありますので逃げます。親の監視範囲外へ移動したり、縁の下などの隙間へ潜り込めば脱出できなくなったり、猫や蛇などの外敵に襲われる危険が何倍にも増加してしまいます。見守ってやろうとすることも逆効果です。種類と場合によっては100メートル以上離れて望遠鏡で観察することも、親鳥の自由な行動に影響します。鳥の能力を人間と同様に認識しないことが重要です。親鳥にとっては保護しようとする人間も外敵であると理解することです。
2. 他人の手であなたの所へこうしたヒナが持ち込まれた場合は、できるだけ早く保護した場所へ戻す努力をして下さい。一番困るのがその場所が分からないケースですが、その場合は羽の生えていないヒナを保護したときより大きな覚悟が必要となります。巣立ちまで親に育てられたヒナは人間を怖がる知恵が付いていますので、人の手で世話をするのは更に困難になるからです。保護した場所が判明したらそこへ放します。樹上性の鳥の場合は少し高い木の枝に止まらせます。昼行性の鳥で夕方遅くや夜間に持ち込まれた場合は翌朝の日の出直前に放すのが理想的です。


To be continued …

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