テキサス探鳥記(3) 山本 晃


 話は少し前後しますが、Bolivar Flats Shorebird Sanctuaryへ行く途中、牧草地の中の水溜りに鳥の姿を見つけ、良く見ればこれがなんとコシグロクサシギ。一同欣喜雀躍、望遠鏡にしがみつきました。簡単に言ってしまえば飛んでいる時、クサシギのように腰が白くないだけのことなのですが、日本でタカブシギやクサシギを見るたび、常にこのシギの事が頭の片隅にあったのです。またひとつ「お土産」ができました。アメリカのバードウォッチャーもフィールドで鳥を見つける時の着眼点は全く同じで、私がまわりの景色を見ながら「おっ!」と思うと同時に米元さんがブレーキを踏むのが面白い一致でした。考えてみれば鳥の生態なんて地球上どこでも同じ筈ですから、そんなことを面白がる方がおかしいと言えます。水溜りにシギ・チありなのです。西三河の惨状を思うにつけ、こういう場所が限り無く羨ましく思えました。

 さて、メキシカンテイストを堪能して午後の行動へ。味についてブーブー言う割に旺盛な食欲を見せる面々には、日頃の健啖家ぶりを決して裏切らない迫力がありました。昼食後、少し足を延ばし、ボリバー半島からほんの僅か(走行100q位)ですが内陸の方へ向かいます。途中大型の船がくぐれるようにスロープでかなりの高さまで登る橋を渡りました。水面から20メートル位ある橋の中央部では360度の眺望が開け、道幅も充分なので停車して眺めを楽しみたいところですが、事故を誘発したり警官に難癖を付けるきっかけを与えるのも困りますので我慢して素通りです。

 牧場が広がる平原には猛禽の姿がちらほら。オジロトビが道路沿いの木に止まっています。

 ヒメコンドルの少し白味がかった翼、尾羽根が短く翼の巾が広いクロコンドル。その特徴的な飛翔形をじっくり観ることができました。だだっ広い取留めのない風景の中に身を置いていると、ボーッとしていたい気持ちが心の中に芽生えて、チマチマ鳥なんか捜すことを忘れてしまいそうになります。茫洋とした草原(牧草地)や湿原の中の道を高速道路並みのスピードで車が走るので、動作ののろい動物はひとたまりもないようです。オポッサムやアルマジロ、かなり大きなアリゲーター(ワニ)などの轢死体が道端に横たわっていて、非情な光景を晒していました。

 左折を繰り返して未舗装の農道に乗り入れ、暫く走ってから停車。ポイントのひとつとのことですが、ポイントにしては広過ぎます。見渡す限りの「ポイント」です。30センチくらいの草が疎らですが一面に生えていて只だだっ広いだけ。


 双眼鏡で眺め回している内に「コモンシギだ!」「アメウズだ!」と悲鳴に近い声が上がり始めました。「ここにも居る!」「あそこにも!」……「これ全部アメウズ!」「あれ全部コモン!」もう大変な騒ぎになりました。日本では希有の珍鳥なのだから仕方ありませんが「ここはアメリカだぜ」などと不粋に水を差すことは許されない盛り上がり様でした。

 とにかく広過ぎてどうしようもありませんが(どうしたいっちゅうんじゃ)、ブロンズトキ、アマサギ、ユキコサギ、オオアオサギ、マダラガモ、オニクイナ、アメリカムラサキバン、クロエリセイタカシギ、フタオビチドリ、アメリカムナグロ、オオキアシシギ、コキアシシギ、ヒメハマシギ、アメリカヒバリシギ、アメリカヒレアシシギ、などなど。
 そして極め付けはマキバシギ。少なくとも5羽はいました。草丈が高く、また広すぎることがどうしようもない不満として残りました。水稲の作付けをする場所だそうですが、こんな広い「田んぼ」ではどうやって田植えをするのでしょうか?多分ヘリコプターで直播きしてしまうにちがいありません。イセキやクボタの大型田植機でも4〜5日掛かってしまうでしょうし、几帳面に並べて植えるなんていう発想は、南部野郎の脳味噌にニューロン1個分も存在しないでしょう。



 更に車を走らせて、何やら湖のような場所に到着です。Cattail Marsh Wetlandという細長い池というか沼状の湿地。ハシグロクロハラアジサシ、アメリカムラサキバン、サギの仲間、ヒメカイツブリ、周囲の林にも鳥の姿がチラホラ。広い水面にはホテイアオイなどの水草が生い茂り水面は殆ど見えません。下水処理場の処理水を流しているそうで、一種の「ラグーン」なのです。通常、下水を浄化して一見きれいに見える透き通った「処理水」として滅菌後放流するのですが、溶存している(溶け込んでいる)無機質(栄養塩)は除去出来ないため、そのまま放流され、燐や窒素が放流先の水系の富栄養化の原因となってしまうのです。三次処理という工程を設ければ溶存している栄養塩もかなり除去出来るのですが、コストの面で普及は芳しくありません。植物に吸収して貰うのが最も安価で効率的なのです。アメリカに於いてこのような「高次処理」が行われているのは意外でしたが、やはり土地が潤沢なことは「幅」と「奥行き」に存分な可能性が発揮出来る自由度を保証していると言えそうですね。人間が汚しきった水を自然のサイクルに無抵抗でゆだねることが出来るということが羨ましく思えました。

 米元氏とLeeさんには得難い出会いを体験させて頂きました。明日からは6人の「ぼんくら」だけで行動しなくてはなりません。未知の環境を開拓する気負いを感じると同時に、同程度の不安を払拭出来ない気持ちが無気味でした。




ガルベストン周辺の地図


1 2 | 3 | 4 5 6 7 8


トップページ