テキサス探鳥記(7) 山本 晃


 いろいろありましたが、8月10日から8月16日中部国際空港に到着まで鳥見三昧を楽しむことができました。トラブルは発生しないに越したことはないのは勿論ですが、適度な(重大でない)ものはかえって食べ物の香辛料のようなもので、むしろ旅行に彩りを添えると言えそうです。勿論結果論です。当時は目が点になったり頭の中が真っ白になったりしますが、あとになって気楽に思い出話に興ずることができれば、それは旅のひとつの要素に過ぎなくなります。重病になったり、交通事故を起こしたりといった、それこそ重大事件が起きればそんな呑気なことは言っていられないでしょう。誰かさんのように骨折して入院、なんて悲惨なことになっても無事に帰って来てしまえば、半ば笑い話になってしまうのは不思議ですね。

 テキサスにシギ・チを見に行こう。STさんに話を持ちかけられた時、私の心はボルネオの熱帯雨林に飛んでいました。永年勤続の「御褒美」で休暇と旅費が支給されるので、予算と日程をどう消費するか「擦った揉んだ」の日々を送っていたのです。先ず脳裏をよぎったのはカミサンが何と言うか……。ボルネオの方は会社負担なのだから……良いだろう。恐る恐る話を切り出すと、夏休み中なら何とかなりそうとの返事。カミサンの予定に抵触しないのが分りOK!。やったー!。情けない話です。

 最近は海外に鳥を見に行く人が知り合いにもかなりいるようですが、メキシコ湾周辺の話しは聞き及びません。私達がパイオニアになりそうです。渡り鳥は概ね南北に移動しますが、そのコースの途中にある海にしろ五大湖のような巨大な湖にしろ、大きな水面を目前にして、鳥達は躊躇して、或いは栄養補給のため、叉は休養の為海岸近くに降りてしまうのが自然な行動でしょう。ですから北米大陸中央部を移動する渡り鳥はメキシコ湾に出る前に殆どの鳥が一旦地上に降り立つと考えて間違い無いと思われます。北上する春の渡りでもメキシコ湾を縦断して最初の陸地に一旦降りるのが自然な行動だと言えます。

 ガルベストンの公園に夥しいムシクイの仲間などの小鳥類が群がるのが観察されるそうですが、やっとの思いで広大な海を越えて来た小鳥は、そのまま内陸へ飛び続けることはまずしない筈です。もちろん渡りの途中の出会いですから「運不運」は付き纏います。今回はシギ・チドリに関してはかなり幸運だったのではないかと思われます。勿論たった一回の訪問で「運」の良し悪しを論ずることは無理がありますが、堪能できたという意味では「良し」と考えていいと思えます。シギ・チドリが目的なのですから他の鳥がシーズンオフで低調でも大して苦にはなりませんでした。これは、決して負け惜しみではありません。巨大な北米大陸の南の一角、地球儀の上で見れば鉛筆の先で突いた程度の範囲を走り回っただけに過ぎないのですが、点を繋げれば線になり、線を引きずれば面になる、そんな安易な気持ちだけが頼りのドライブでした。空と大地の間に360度の平面があるのですが、地物の殆ど無い広大無辺な土地は、私の感覚に50年の人生をもってしても経験のない、空漠として頼り無いものが押し寄せて来るのでした。不思議なことに、ボルネオの圧倒的なボリュームの熱帯雨林に対峙したときの感覚と、妙に似ていたのは何故だったのでしょうか。ニンゲンが大自然の片隅でひっそりと暮らしていることを知って感じた、妙な安堵感の裏返しなのかもしれません。

 帰宅後に米元氏に送ったお礼のメールの返信に、春の渡りを是非……。とありました。8月ほど暑くはないので快適だと但し書きを添えて。実際その通りなのですが、私達がよほど暑そうに見えたのでしょう。華氏の表示でピンときませんが、天気予報を見るとヒューストンは華氏92°Fなんて表示されていました。計算しないと分りませんが、セ氏33℃位でしょうか。風が良く吹いてくれたので体感気温はさほど高くはなく、反面、強烈な日差しの下は風で下がった分を補って余りある暑さを感じました。

 春の渡りは良いでしょうね。きれいな夏羽も見られるでしょうし、シギ・チドリ以外も充分楽しめそうに思えます。又行きたい気持ちは6人共同じだろうと思いますが、あの長時間のフライトを思い出すと少し気持ちに陰が差しますし、立続けではカミサンが角を出しそうです。2〜3年してほとぼりが冷めてからが無難でしょう。

 今回もSTさんにはスケジュールの面で、米元氏とのコンタクトや様々な予約と行程の摺り合わせなど、全面的に頼らさせて頂きました。少しでも力になろうと私なりにインターネットで現地の地図など調べたりして勉強しましたが、あまり役に立てなかったのは残念でした。一人旅でない所為か、依存心の芽生えを摘み取り切れないのが情けなかったと反省しております。OYさんは「電子辞書」を持参されましたし、SUさんは細かくメモを取って下さって大変助かりました。TKさんは何かに付けて一言二言三言四言……ただでさえメキシカンテイストで酸っぱい口を、更に酸っぱくして捲(まく)し立てて下さいました。SYさんはテキサスまで行っても(おそらく冥王星に行っても)何も変わらない「安城のSY」でした。

 皆さん御立派でした、それぞれに。 そして、ありがとうございました。これで、ドタバタ6人組のテキサス探鳥行の報告を終わらせていただきます。拙文を読んで下さって有り難うございました。


ガルベストン周辺の地図


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